認知症の予防と改善 | 富士山麓病院介護医療院・富士山麓クリニック

認知症の予防と改善

清水理事長の講演 「認知症の予防と改善」の資料より抜粋

清水理事長の長年にわたる臨床経験をもとに作成された貴重な資料です

高齢者の脳神経細胞の減少の仕方

脳神経細胞が活動能力を損失すると『認知症』に陥りやすいと言われます

40才頃から、毎日平均10万の脳神経細胞が活動能力を喪失するといわれている。
この結果は以下の表Ⅰの如くなる。
赤い字で表示された年齢が認知症の発症時期に該当します

表Ⅰ 脳細胞の減少経過について(40才から)

1日の
減少数
1年間の
減少数
50才 60才 70才 80才 90才 100才
7.5万 7.5万×365日
2737.5万
2億7375万 5億4750万 8億2125万 10億9500万 98才
13億6875万
16億4250万
10万 10万×365日
3650万
3億6500万 7億3000万 10億9500万 84才頃
14億6000万
18億2500万  
12.5万 4562.5万 4億5625万 9億1250万 75才
13億6875万
18億2500万    
15万 5475万 5億4750万 69才
10億9500万
16億4250万 21億9000万    
20万 7300万 7億3000万 63才
14億600万
21億9000万      
25万 9125万 57才
9億1250万
18億2500万        
(例)1日に10万個の脳細胞が損失すると 84才頃 認知症に陥りやすいと言える

脳細胞の減少数が異なる原因について

  1. 生活の仕方
  2. 考え方による感情の持ち方
  3. 老化による脳神経細胞内外の生成物質(認知能力を低下させる)の増加が影響する
  4. 疾病の影響
  5. 遺伝的な問題
    などが考えられる。

しかし、日常生活の仕方の差によって、脳細胞の平均減少量が 決まることに注意する必要がある。

脳細胞の減少と関係する日常生活について下記表Ⅱで述べる。
ここでの問題は表Ⅱの生活各項の質と量の低下を防ぐことである。

表Ⅱ 日常生活の内容について

〔1〕下記活動などの継続
商売・勤め・家事・事業・政治や経済活動・スポーツや芸術活動
福祉活動・学問の研究などの継続或いは参加
〔2〕健康の維持
・衛生・清潔の維持
・疾病への注意・治療
・栄養への注意
・運動への注意
・睡眠への注意 など
〔3〕対人関係

家族・友人・知人などと、お互いの『自己実現』や『存在価値』
の成立・確保のための協力・配慮が必要。特に高齢者には次の表に記した考え方と感情を持たせないこと

高齢期に認知症になりやすい考え方と感情の持ち方
○ 寂しい・悲しい・悔しい・何でこんなことになるのか。
○ 憎らしい・恨めしい・仕返しをしてやる。
○ これからの生活をどうしたらよいのだろうか。不安・怖い・苦しい。
○ 何もすることがない・つまらない・毎日することは同じことばかり 話をする人もいない・友人も知人もいない。
○ 生きていることがつらい・生きていても意味がない 死んだ方がまし・死にたい
○ 愛する人がいない。愛してくれる人がいない。
○ 親しく付き合ってくれる人がいない。友人がいない。
○ 生き甲斐とすることがない。

以上のような考え方と感情の持ち方が続くと
1. 認知症の出現が早まる
2. 認知症の進行が早まる

〔4〕お互いに『優しい人』となること   優しい人の定義は以下の内容とおりです。
〔5〕愛する人がいること・愛してくれる人がいること
〔6〕趣味を持つこと その人を更に成長させてくれるような趣味であること
〔7〕蓄積されている過去の経験・知識の整理と応用 応用により現在の生活の改善
〔8〕新たな経験・知識の獲得 一日ごとの充実した生活を過去の日々に積み上げていくこと 充実した過去を創り出すこと
〔9〕日々反省し、自分を修正し、進化させること
〔10〕人々を愛せること;生きていること、生まれてきたことを祖先・両親・そして偉大なるこの世の創造主に感謝すること

そのまま月日が経過すれば〔1〕~〔10〕の行為は減り続け、認知症の前駆期に入り、次第に認知症に入ってしまうことになります。

したがって、幾つかの行為が目立って減少し始めた時期が認知症の前駆期を目前にした時期と言うことができるでしょう。
そして、『自己実現』と『存在価値』を成立させようとしている行為でもあります。

つまり、現在の生活の項目(表Ⅱの生活)の幾つかが消失し始めると『未来』を考えることができなくなります。『目標・計画・予定・約束など』を創りだすことが困難になります。
その結果、充実した『今日』は失われます。

表Ⅱの行為が充実した『現在』の生活は、同様に充実した立派な『過去』と、その時々の充実した『未来』を創り出し、私たちの思考能力と生きる意欲を鼓舞してくれます。
そして、このように充実した『過去・現在・未来』の日々は、我々が認知症に陥るのを避けさせてくれるのです。

上記の日常生活の中の行為は関係するいろいろな認知能力がお互いに情報を交換し助け合い、バランスを取り合い、そしてそれぞれの認知能力の低下を拒否しようとして成立している行為です。
認知能力の種類の主なものを表Ⅲとして下記に記します。

表Ⅲ  認知能力の種類

感覚器に知覚する能力
生命の危機を察知する能力 気付き発見の能力
記憶する・記憶している能力
記憶していることを意識化する能力 創造する能力
推測する能力
現状を改善する能力
いくつかの条件変化を関連させて考える能力
変化・動きなどを予測する能力
問題を解決しようとする能力
他人の気持ちを察知する能力
気配りをする能力
愛情・優しさを感じる能力
感謝する能力協力し合う能力
目標・計画などを創る能力
配偶者・子供の危険を感じる能力
愛する人の危険を感じる能力
家を守ろうとする能力
困っている人に気付く能力
仲間を助けようとする能力
家族や会社を守ろうとする能力
仕事・研究・芸術品などを完成しようとする能力
子を育てる能力 仕事を育てる能力
友人関係を育てる能力
野菜・果実などを育てる能力

認知症の経過について

認知症の軽度期は、私たちの『現在の生活』がバランスを欠き、私たちに『未来』を創ることを出来なくさせる状態から始まります。
つまり、『目標・計画・予定・約束・希望など』を創ることが出来なくなることから始まります。
したがって、高齢者に現状を改善する行為はなくなります。
慣れている同じことを毎日繰り返すだけの生活が出現します。
新しい日々を創り出す能力を失います。

やがて、〔1〕~〔10〕の行為を失った生活は『未来』と『現在』の間にある境界を思考の中から取り払い、更に『過去』と『現在』の間にある時間上の境界も取り払うのです。
そして次第に『未来』と『過去』は、記憶力を失いつつある『現在』の中へ溶け込み、『現在』と共に消滅します。
この時、我々の『現在』は、「食べること、動くこと、休むこと」によってのみ続けられた35億年前頃の、生命体の始まり頃の生き方に戻ることを経て、消滅することになるのです。

認知症治療にとって一番大切なことは『現在』の生活を充実させることです。

そしてより良い『未来』や『過去』を創り出すことです。
私たちはより良い過去を今更創ることは不可能だと考えがちです。
しかし、充実した一日を過ごせば、次の日には充実した『過去』の一日となります。
したがって、今からでも素晴らしい過去の日々を創れます。
そして、積み重なった過去の日々の良い経験・知識は、『現在』の生活のなかで優れた応用能力と創造能力を創り出し、素敵な『未来』の日々を創り出してくれるのです。
私たちは、生活の現状を改善する目標や計画・予定を立てたりすることで、自分の願いをかなえる日々、『自己実現』をするための日々と、家族・友人・知人たちから尊敬・感謝される『存在価値』のある日々をもつことで認知症を予防することが可能となります。

目標・計画・約束・期待・志・夢・祈りなどがなくなった日々の中から認知症が生まれてくるのです。

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