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| 【考察T】 若い頃のHさんにとって、長男は夢・希望・期待・計画でした。つまり、楽しみいっぱいの『未来』だったのです。この『未来』こそが、Hさんの生命力と気力を維持させる源だったようです。それで我慢も苦労もできたのでしょう。 では、一般的に年老いた親にとって、Hさんのような子供は、どう捉えられているのでしょうか。 多くの場合、子供は親から遠く離れた所で生活しています。つまり、子供は、遠く離れた『現在』と、思い出ばかりの『過去』となっている場合が多いようです。 【考察U】 古い時代の『嫁と姑の関係』と『男尊女卑』の考え方を続ける姑と夫によって、Hさんは心に傷を受けました。当時、Hさんにとっては幼い長男だけが生きるための唯一の希望であったのでしょう。長男を抱いている時だけが、気持ちの安らぐ時であり、長男だけがHさんに、我慢してでも生き続けなければいけないという存在価値を感じさせていたようです。その後、次男が生まれました。 長男は7歳の時、高熱を出し亡くなりました。その後もHさんは、長男を忘れる日がなかったようです。 Hさんは、残された次男を大切に育てました。その次男もやがて成長し、結婚し独立してしまいました。Hさんにとっての最初の頃の生活が再び始まったのです。つまり、姑と夫のHさんの3人の生活の始まりです。Hさんが昔と同じように、生きていくための希望として、長男を再び必要とするようになったのは当然の成り行きでしょう。 【考察V】 認知症が進行した今、Hさんの気持ちが安らぐのは昔と同じように、長男と一緒に居るときだけとなりました。長男が居ないと、淋しさと悲しみで、Hさんの心は壊れ続けてしまうのです。Hさんは長男を必要としました。『必要な人は出現する』のが認知症のある時期の特徴です。 長男はいたずら盛りの七歳です。夜だって騒いでなかなか寝ようとしなません。Hさんは心配で、『早く寝ないと病気になってしまいますよ。死んでしまいますよ』と長男に言います。しばらくして静かになったので、Hさんは長男の布団を見ます。そこには長男は居ません。『本当に困った子』と言って、Hさんは長男を迎えに行きます。 外は夜中で暗いのですが、道を間違えることはありません。いつも長男が遊んでいるところは決まっています。やはり、いつもの所に長男は居ました。墓地の墓石に寄りかかってニコニコしているのです。Hさんは喜びます。そして、厳しく子を守る強い母親に戻るのです。 『さあ、帰りましょう。こんな夜遅くまで子供は外で遊んではいけません』と、長男の手を引いて嬉しそうに家へ戻って来ます。長男が転んで怪我などしないように、安全な所を選んで歩いて来ます。 このような行動を、Hさんは一晩に数回も繰り返すことがありました。悲しいことに部屋に長男の姿が見当たらなくなるからです。 Hさんは昼間、家の門から外に出ると、家へ戻ることはできないようでした。しかし、長男の埋葬されている、近くの墓地に出掛ける時だけは、それが夜中であっても「ちゃんと家へ戻ってくることができる」「不思議なんです」とご家族が言っていました。 Hさんは、亡くなった長男と一緒に居る時だけが、気持ちも安らぎ充実した時を過ごす事ができるのです。そして、母親としての責任感・義務感などが、この安らぎと充実感に支えられて、正常な判断力をHさんに蘇らせていたのでしょう。 亡くなった長男だけが、Hさんの認知症の進行を止めようとしているかのようです。 いかがでしょうか。悲しい経験、苦しい経験、残念な経験、申し訳ないと悔やむような経験などは、老後、認知症が現れる時の症状の原因となるのです。 【考察W】 Hさんのような例は、現在でも意外に多く、結婚後、夫から身体的暴力を受ける女性は珍しくないようです。まして、女性がそれと気付かないような精神的暴力を受けている場合、それはもっと多いようです。いわゆる家庭内暴力、あるいは、夫が『人格障害』を示す場合です。このような場合の男性は、普通、仕事は出来るし、勉強も出来ます。恋人や妻子以外の人に対しては、対人関係も良好です。問題なのは妻子に対しての愛情あふれる配慮が出来ないことでしょう。最近では、夫のこのような精神的暴力に気付く女性が増加しているようです。それで離婚率が増加しているのかもしれません。 |
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