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| 今回は当院で天寿を全うされたAさん(80歳、女性)の、ご臨終の様子をお話したいと思います。 Aさんの認知症状態は重度でしたが、進行は停止した状態にありました。しかし老衰状態は進行していました。そして徐々に肺炎が加わりました。経過は不良で、1週間後、Aさんに最後の時が迫りました。 ご家族には「明日まではもちそうにもありません。お身内の方々にご連絡された方がよいでしょう」と申し上げました。 やがてAさんの血圧は60まで下がり、心臓のリズムも不整になってきました。様態は急変しました。ときどき呼吸も停止するので、人工呼吸と心臓マッサージを施行していました。 娘さんが心配そうな顔で聞かれました。 「あとどのくらいもつのでしょうか」 「あと1時間くらいが限界かと思いますが」 と私は答えました。 「あと1時間半ほどで母(Aさん)が一番可愛がっていた孫のBが来ることになっているのですが・・・」 と、娘さんはとても残念そうな顔をされます。私はふと思いついて申し上げました。 「必要な薬剤はすでに使い切っています。もしAさんの命を延ばすことができるとすれば、それはAさんの『生きようとする意欲』に訴えるしかないと思います。ただしAさんは今意識がありません。訴えてもわからないと思います。したがってAさんの無意識に、つまり生命そのものに直接訴えてみられたらいかがでしょう。無駄かも知れませんが、それしか方法はなさそうです」 「それはどうするのですか」 「Aさんの耳元で、『お母さん、Bちゃんがもうすぐ来ますよ。頑張って待っていてあげてね』と繰り返し話掛け続けるのです。そして話の脈略はなくてもよいですから、時々『お母さん、ありがとう』と言ってあげることです」 早速ご家族は、Aさんに「Bちゃんがもうすぐ来ますよ」と話し掛け始めました。しばらくしてご家族のお一人がそっと私に告げて下さいました。 「母の目から涙が流れ落ちました」 と。 Aさんの血圧は80に上昇しました。心臓のリズムも奇麗に戻りました。その後、血圧はさらに100まで回復しました。お孫さんのBちゃんにもお会いできました。そして1時間後になくなられました。 |
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