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 次に会う日を約束しました。約束の日にAさんと話をしました。Aさんは相変わらず父のために抗うつ剤を使用して欲しいと言いました。
私: 「私にはお父上がうつ病だとは思えないのです。お父上がうつ病であると診断されたのはいつ頃のことですか。」
F: 「25年位前です。」
私: 「ということは、お母様の亡くなられた頃ですね。」
F: 「そうです。」
私: 「その時の医師は何科の先生でしたか。」
F: 「内科の先生でした。」
私: 「そうですか。それで、その後ここに入院されるまでの間、ずっと抗うつ剤を服んでおられたのですか。」
F: 「そうです。」
私: 「現在、お父上は抗うつ剤を服んでおられません。それでも特に変わりありません。今の状態なら、このまま薬を中止していても大丈夫だと思います。もし悪くなるようでしたら、その時は使用するようにしたらいかがでしょう。できるだけ不必要な薬は服まないほうが体のためにはよいですよ。」
F: 「でも父は"死にたい、死にたい"と言っているのですよ。もしも、ということもあるでしょう。」
私: 「確かにそういうことはないとは言い切れません。何度も言うようですが、現在はうつ病の状態ではないのです。そのような症状が出現してきたら処方させて頂く、ということでは駄目ですか。」
F: 「・・・・・・。」
私: 「Aさん。お父上はあなたの人生を自分が駄目にしたのではないか、と思っていらっしゃるのです。たとえば、今のような自分がいるからあなたが結婚できないのではないか、自分の教育の仕方が間違っていたのではないか、などと最近まで考えていらっしゃったようですよ。そして"もしそうなら私は死んで娘にお詫びしよう"と考えているのです。したがってAさん、あなたがお父上に面会するとき、あなたが困っていることや、苦しんでいることなどで弱音を吐いたりされると、お父上は混乱されて、"死にたい、死にたい"とくり返されているようですよ。」
F: 「・・・・・・。」
私: 「お父上はそのくらいあなたを大切に思っています。どうでしょう、私みたいなヘボ医者に抗うつ剤を使用させるより、あなたご自身がお父上を元気にして差し上げたら。お父上はこれからの人生を幸せな人として送ることができますよ。終わりよければ全て良し、と言いますもの。」
F: 「私は父に何をすればいいのでしょうか。。」
私: 「私が結婚しようとした人はまだ若いのに癌で亡くなりました。結婚して子供が体質遺伝で癌で死んだりしたら悲しすぎます。それから私は最近良いことが多いの。素敵なお友だちがいっぱいできたし、仕事も上手くいっていて誉められてるし、とっても幸せなのよ、などと、嘘でもいいからあなたがとても楽しい生活を送っていることをお父上に話してあげて下さい。手を変え品を変え、言葉を変えて、繰り返し繰り返し何度でも幸せなことを話してあげて下さい。」
F: 「父に嘘をつくのですか。」
私: 「よいではありませんか。お父上が今よりお元気になるためには、あなたの嘘が最高の良薬になるのです。もしこの方法でお父上にお元気が戻らなければ、あなたのおっしゃる通り抗うつ剤を使用させて頂きましょう。」

 Aさんとの話し合いは、この日はここまででしたが、お父上のご様子についてはまだ継続治療中なので、いずれ後日に稿を改めて、お伝えすることにさせて頂きます。
 いずれにせよ、私たちの病院では、開院以来、入院患者さんを薬漬けにしないことをモットーに対応しています。上はその一例ですが、私たちの考え方の一端をご理解いただけたなら幸いです。
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