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 Aさんがお父様を当院に連れてこられてから4ヶ月が過ぎました。お父様は80歳です。Aさんは40歳です。兄と姉がいます。どちらも結婚して子供たちがいます。
 次女のAさんは独身です。独身だからということではないのでしょうが、お父上と一緒に生活していました。というよりも、お父上の面倒を見てこられた、と言ったほうが適切でしょう。
 お父上は妻を亡くして25年になります。数年前から認知症症状が出現しているようです。現在の認知症状態は中程度くらいです。
 入院された最初の頃は、なんとなく元気ないように見えましたが、2〜3週間も経つとずいぶん元気になられました。理由ははっきりとしませんが、ナースの皆さんが明るく接していることと、娘さんつまりAさんを誉めてあげる会話をしているからかもしれません。特に娘さんを誉めてあげるときは、お父上は相好を崩されて嬉しそうです。
 このようなお父上にAさんはときどき面会に来られます。そしてAさんは、時には「私の父はうつ病なのです。よろしくお願いします」と言って帰られます。しかし、私たちが話をしているときの印象では、お父上はうつ病ではなさそうです。
 その後もAさんは「父はうつ病なのです。"死にたい、死にたい"とすぐ言うのです。私もうつ病です。私はクリニックへかかっています。現在、抗うつ剤を服んでいます。それで元気でいられます。父もよろしくお願い致します」と言って帰られました。
 ある日、私はお父上(以下「Fさん」と呼びます)に聞いて見ました。
私: 「天気が悪くていやですね。」
F: 「そうですね。」
私: 「こんな天気ですと、私はからだの調子が悪くて元気がなくなってしまうんですよ。」
F: 「私だってそうですよ。でも先生はまだ若いでしょう。」
私: 「いや、もう若くないですよ。」
F: 「私から見ればまだまだ若い。」
私: 「でも、からだの調子がとても悪いと、生きていくのが嫌になってしまうのです。Fさんは生きているのが嫌になることはないのですか?」
F: 「う〜ん、ないなぁ。」
私: 「ア、そうそう、娘さんがまた会いに来てくれますよね。来週ですね。いい娘さんですね。優しくて・・・。」
F: 「ええ、あの娘はいい娘で・・・。」
私: 「Fさん、娘さんは気が強いでしょう?」
F: 「小さいころは気の弱い優しい娘でしたが・・・私が気の強い娘にしてしまったのですよ。」
私: 「そうですか。」
F: 「結婚したいと言われたときも反対したし・・・。」
私: 「そうですか。」
F: 「私はあの娘の迷惑になるようなら死んでしまいますよ。」
私: 「死んだら娘さんが悲しむでしょう。お父さんのこと大好きな娘さんですよ。」
F: 「迷惑をかけるのは嫌や・・・だからなんです。あの娘のためなら喜んで死にますよ。」

 Aさんから連絡がありました。
「私の父はうつ病です。ぜひ、うつ病の薬を使用して下さい。私もうつ病ですが、今のようにしていられるのは薬のおかげです。ですから父にももっと元気になって欲しいのです。いつも"死にたい、死にたい"と言っているのです。精神科の専門医に診てもらえるように計らって下さい。ぜひお願いします」
以上のようなお手紙でした。
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