| 2/3 | ||
| 外来診察でのSさんとの会話は次のようなものでした。 私 Sさん、以前に習い事をしたことがありますか。 S はい、上手ではなかったのですが、お花とか、お茶、お習字などを若い頃に習いました。 私 今でもお花を習わなかった人よりは上手に生けることができそうですか。 S できると思いますけど…… 私 字も上手にお書きになれるのではないですか。 S 昔ならできたでしょうけど、今はだめですよ。第一、字を忘れてしまっていますね。 私 目は悪くありませんか。この字はお読みになれますか。(お掃除と書いて見せる) S 眼はそんなに……老眼鏡を使っていますから見えますよ。え〜と、「おそうじ」でしょ。 私 よく読めますね。まだまだ眼がよいですね。 S でも「おそうじ」と言われても書けませんよ。 私 私だって書けませんよ。こんな難しい字は。 S あら先生、ウソ言わないで下さいよ。 私 いや、本当に書けませんよ。ところでSさん、最近忘れっぽくなったでしょう。 S そうなんですよ。自分でも困っているんです。 私 そうですか。実は私もそうなんです。忘れっぽくて困っているんです。それで忘れっぽくなったのを治そうとして、毎日していることがあるんです。 S なんですか、それ。私もやってみようかしら。 私 それは、今日はお花の名前を10書くぞ。菊、百合、桜、……。今日は動物の名前を10書くぞ。犬、猫、猿、……。今日は魚の名前を10書くぞ。タイ、ヒラメ、アジ、……。というように毎日するのです。そうするといろいろなことを忘れないで済むのです。 S 私もしようかしら…。 私 そうですね。それからSさんの場合は花を毎日花瓶に飾るのがいいでしょう。玄関とかお部屋を美してあげるとよいですよ。ご家族の皆さんも花を見て元気になりますよ。 S そうですね。 私 Sさん、そうして下さいよ。ご家族の皆さんを元気にしてあげることは、Sさんでないとできませんよ。 S してみたいですけど…、私にできるかしら…。 私 できますよ。Sさんならきっとできますよ。「する」と約束してください。 S なら、やってみます。けど、私ボケてますもの……。 私 大丈夫、できますよ。花を生けているうちに、今くらいのボケなんか治ってしまいますよ。ボケを治す薬なんてないんですよ。「花」の美しさのほうがよく効くんですよ。 S あら、そうなんですか。初めて聞きましたわ。 私 これは最近わかったことで、これから医学界に発表することなんですよ。 S それならやってみます。 ご家族には次のように説明させていただきました。 Sさんは元来得意とする生け花の経験を生かした花を飾るという行為を約束しました。この約束の実行にあたって、ご家族の協力がせひ必要です。注意点は、 1.花瓶を自ら用意すること 2.花屋さんへ行って適当な花を買い求めてくること 3.花を長持ちするように処理すること 4.花を生けること、後片付けをすること 5.花瓶を適当な場所に置くこと 6.適当な時期に花をとりかえること です。上の項目のうち4項目の行為が可能であれば、Sさんは物忘れが目立っていても、認知症の進行がストップしたり、改善したりする可能性を大いに持つことになるでしょう。認知症は軽および中程度ということになるでしょう。 もし3項目以下であれば、認知症の進行速度を遅くしたり、ストップしたりする可能性をまだまだ持っていらっしゃることになるでしょう。この場合はSさんの認知症は重度程度と考えられるでしょう。 |
||
| 前へ戻る | 次へ進む | |
|
|
||