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■今回は82歳の女性、Pさんのケースについて考えてみましょう。
Pさんは二年前に当院へ入院されました。その当時、ご家族のお話では、Pさんの問題となる症状は次のようなものでした。
※現実ではないことなど、思い違いが多い。
※息子たちの嫁の悪口を言う。
※「盗まれた」「お金がなくなった」などと言いふらす。
※部屋の中を汚しっぱなしにしている。
※入浴をしなくても平気。
※家の周りをぐるぐる歩き回る。
※大切な物を持ち歩く。
※夫がいないと不安になる。
※外出しても行き先を忘れる。
※子供の家へ頻繁に電話する(一時間に二十回も)。
※衣類をきちんと着ることができない。
※活気がなくぼんやりしている。
※聞いたことをすぐ忘れる。
※他人のものと自分のものと区別がはっきりしない。
※トイレで後始末ができない。
以上のような症状は、Pさんが認知症の中程度を過ぎ、 重度の状態へ進行しつつあることを示しています。
したがって、このような症状を消失させ、Pさんの認知症状態のストップ・改善をはかるためには、次のようなPさんの状況を理解し、それに対応することが必要になりました。
- 息子さんたちに対する不満を、嫁の悪口を言うことによって訴えていること。
- 家の周りをぐるぐる歩き回ったり、子供のところへ一時間に20回も電話をかけることなど、同一行為の繰り返しから、何かかなえられない願い事へのこだわりがあること。
- 部屋の中が汚れていても平気なくらい、訪れる人がいない生活を続けていること。
- 入浴をしなくてもよいくらい、会いに行く人、または出掛けるところがない生活を続けていること。
- 夫がいないと不安になるほど、重要なことは夫が判断してしまっていたのが、Pさんの人生であったこと。
- 大切な物を持ち歩くということから、Pさんはそれでも自分一人でなんとかやっていこうと、淋しい決心をしていること。
- いろいろな心配事・淋しいこと・つらいことなどがPさんをぼんやりさせ、物忘れをさらに強めていること。
以上のようなPさんの現状を考慮して、私たちは対応しました。またお子さんたちにも理解と協力を惜しまず、Pさんに接してくださいました。
その結果、忘れっぽいことを除いて、問題となるほとんどの症状が目立たなくなるか、消失しました。Pさんは心の平安を取り戻されました。
Pさんのこだわりは、息子さんに話をしてもらいたい・楽しい時間を過ごしたい・一緒に生活したいということのようでした。
Pさんの入院後の経過は幸運にも良好でした。しかし、次にはこの幸運のもとに、不幸も訪れました。
Pさんは退院して帰るところがなくなっていたのです。いろいろな事情があって、Pさんは入院生活を続けるしかなくなってしまいました。
Pさんは病院へ面会に来てくれるお子さんを、毎日待ち続けるようになりました。お子さんの面会が約束の日を一日遅れても、Pさんの訴えは多くなりました。
「胸が苦しい」
「おなかが痛い」
「めまいがするんです」
「胃の具合がよくないんです」
など。体の不調を訴えられました。
しかし、息子さんが面会にくる予定の日は訴えはありません。朝から身だしなみを整えて、ニコニコしながらお子さんを待っていらっしゃいました。
ところが、いつになってもPさんの退院はなかったのです。入院からおよそ二年の日々が過ぎていました。
Pさんの顔付きがややきつくなってきました。訴えが減りました。会話も減り、孤独の時間が多くなり始めました。
Pさんの認知症が再び進行し始めたのです。今度こそ、本当の意味での「寄る年波には勝てない」という、老化が進行してきたようでした。
入院されたお年寄りの大多数の方は、認知症の進行が遅くなったり、運がよければ進行がストップしたりします。さらに運がよければ改善することもあります。
しかし、このような状態は無限に続くことはありません。最後には体(脳を含めて)の絶対的な老化現象・生命現象の法則に圧倒されてしまうことになります。認知症が再び進行し始めます。
お子さんたちが、Pさんの幸せのために、この二年間にベストを尽くしてくださらなかったとするならば、私たちがPさんの判断力が少しでも正確である時期を二年間ほど維持したのは、何のためだったのか理解に苦しむことになります。
『Pさんの略歴』
Pさんは生まれるとすぐに母親が亡くなられ、Pさん商家の養女になられました。
実父とは行き来はなく、養父母は厳格な人たちだったようです。20歳でサラリーマンの夫と結婚され、5人の子供をもうけました。長男と長女は子供の頃に死亡され、夫も20年前に心筋梗塞で死亡され、以後、一人暮らしが続いていました。
お年寄りが若い頃から願っていたこと、期待していたことが思うようにならないままで老後を迎えている場合とか、存在価値を認められないとか、していることが毎日同じことばかりなどの場合に、お年寄りの認知症状態は時期を早めて出現してきます。
充実した生活が続いていれば、90歳まではボケないでいられるはずの人が『淋しさ・悲しみ・つまらなさ・することもない』などの生活のため、80歳で認知症を出現させてしまうようなケースはよくあることです。
Pさんもこのような認知症の一例のようです。
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