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■今回の症例検討は78歳の女性、Mさんの場合を考えてみましょう。
 Mさんには次のような症状があるとのことで、当院に相談に来られました。
※「お金を盗られる」「家を奪われてしまう」などと近所で言いふらす。
※夜中に眠らないで何かをしている。
※暴言が多い。

などでした。この様子ではすでに認知症は 中度状態 と考えられます。そして入院となりました。

 Mさんは娘(養女)さん一家と同居しています。夫は6年前に胃癌で亡くなりました。孫が二人います。
 Mさんは東京都出身です。実家は農業を営んでいました。長女でした。妹が二人います。
 Mさんは小学校卒業後、就職しました。就職先に出入りしていた植木屋と結婚しました。戦後の苦しい時期をすぎると生活も楽になりました。
 特に昭和40年代に入ってからは、所有していた土地の値も上がりました。それを必要に応じて植木畑を切り売りしたので、生活はさらに楽になりました。
 Mさん夫婦は子供がなかったので、養女を取りました。養女は優しい娘でした。父母を大切にしました。

 やがて婿を迎え結婚しました。Mさん夫婦はこの二人の為に家を一軒建ててあげました。
 しばらくして婿は勤めていた会社を辞めました。Mさんの夫と事業を起こすことになりました。
 Mさんは夫が年をとってきていて、自分の仕事が難儀になってきたのを知っていました。それで、夫と婿との計画には何の反対もしませんでした。二人は事業資金に土地を一部売却してあてました。
 しばらくして、景気のよい時代が日本全国から遠ざかり始めました。
 この頃、Mさんの夫が胃癌で亡くなりました。後を継いだ婿の事業も次第に景気が悪くなってきました。

 Mさんの一人暮らしが始まりました。Mさんには夫から相続した不動産がありました。婿はこの不動産を事業の為の担保として、提供してくれるようにMさんに頼みました。Mさんは自宅の敷地以外の土地を娘と孫たちのためにと考えて提供しました。

 しかし、婿の事業は立ち直ることができなかったようでした。
 その後しばらくして、Mさんと婿との仲がよそよそしいものとなっていきました。実はMさんの残された家と土地のことが問題の発端のようでした。

「今度の売却が最後で、これで完全に会社の借金がなくなるので、後は順調に利益が上がるんです。今がそうする絶好のチャンスなんです」

「でも、それでは私の生活する所がなくなってしまう。それにこの家屋敷をなくしては、死んだおじいちゃん(夫)にも申し訳が立たない」

「私たちの家へ来て、一緒に生活すればいいじゃないですか。孫たちもおばあちゃんには優しいでしょう。それに仕事がうまく行けば、手放した土地も家ももう一度買い戻せるし…」

「今までも、いつもそう言ってたじゃないか。でも、いつも結局は駄目だったじゃないか…」

などのやりとりがMさんと婿との間で繰り返されていました。
 娘は母と夫との間に入って、何かと気を遣っていました。
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