Oさんは茨城県の出身です。実家は木工業を営み、生活は普通の、いや良いほうの家庭でした。Oさんは高校卒業後、一流の銀行へ就職されたことからも家庭のレベルが推測されます。昭和27年頃、高卒の女子が銀行に就職するのは大変なことだったようです。

 Oさんは23歳の時、サラリーマンであった夫と結婚しました。しかし夫は八年後に亡くなられました。幼い子が二人残されました。
Oさんは商売を始め、かなり忙しく働き続けたようです。二人の子供(女・男)は成長し、それぞれ独立しました。

 そして平成8年、「寒気がするので病院へ連れて行ってほしい」と長男宅へ電話するまで、一人暮らしを続けてきました。

 以上が今までのOさんの人生の概要です。
 私たちは過去の人生において、「つらいこと、苦しいこと、悲しいこと、楽しいこと、嬉しいこと、・・・」など、いろいろなことを経験しています。それらの経験に基づいて、現在の諸問題に対応しています。

 つまり思考・判断して行動しています。極端な言い方をすれば、私たちは、「つらい、苦しい、悲しい、楽しい、嬉しい・・・」などの過去の経験による表情の仮面を持っていて、それらの仮面を日常の諸問題に面と向かわせて、または思考にかぶせて対処しているということになります。
 したがって、嫌なことが多かった人は、攻撃的だとか拒絶的または周囲の出来事に対して無関心な表情の仮面の数ばかり多く、わがまま、自分勝手な生活経験の多かった人は威張ったり、努力することのできない仮面の表情しか持ち合わせがないというような状況になってしまいます。

 Oさんは過去という袋の中に、人を信用することの出来ない表情の仮面、イライラの仮面をたくさん持っています。取り出そうとするとそんな仮面ばかりなのです。きっとOさん自身も戸惑っていることでしょう。にこやかな表情の仮面を早く袋のから見つけ出してあげたいものです。このように対応することが介護というものでしょう。

 そしてOさんの袋の中に、にこやかな表情の仮面がないのなら、またはそのような仮面が壊れてしまっているのなら、新しいにこやかな仮面をいくつも作って、Oさんの現在という袋の中に入れてあげることが必要でしょう。

 このような対応が、『仮面のお年寄り』に対しての医療ということになるのでしょう。

 




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