ケースワーカー 芹沢亜紀子
 「7月31日は、夏祭りがありますよ。楽しみですね」
 夏祭りの1週間ほど前から、私が患者さんの前で口癖のように繰り返していた言葉です。それに対しての患者さんの反応はさまざまです。
「楽しみね」
「なにか、出し物がでるのかな」「せっかくだから家族も誘おう」と楽しみにして下さる方もいれば、
「あんまりお祭りは好きじゃないのよ」
「人がたくさんいるところは苦手」とおっしゃる方もいて、夏祭りという1つの話題に対して、何通りものお答えを聞くことができました。

 それでも、皆さんが心待ちにしていた7月31日の夏祭り当日。
 その日は、前日までの悪天候が嘘のように、青空が広がっていました。
 快晴の空の下には紅白幕ややぐらが組まれ、ホールには夏祭りらしくカキ氷やヨーヨー釣り、射的などの出し物がセッティングされています。
 祖父母も、父母も...いや、私たちの幾世代も前の祖先から何代にもわたって大切に伝えられてきた伝統ある「日本の夏祭り」
 これはまさしく、私が、子どもの頃体験した夏祭りの雰囲気そのものでした。患者さん達も、昔のことを思い出したのでしょうか、目を細めて懐かしそうな表情をされている方もいます。
 村の鎮守様の境内から聞こえてくる祭り囃子の音に心が浮き立ち、親から貰ったお小遣いを握りしめて走って行った幼い頃の思い出に耽っているような様子の方も見受けられます。
 職員も患者さんも、日本の祭りにつきものの浴衣やハッピを着て、夏祭りの雰囲気を一層盛り上げています。
 患者さんたちは、カキ氷を食べたり、冷たい飲み物を飲んだりと、思い思いに夏祭りを満喫していらっしゃるようでした。

 一色太鼓の子ども達が太鼓を叩き始めると、会場の視線が子ども達に集まります。子ども達の顔は真剣そのもの。
 それを見ている患者さんの顔は、様々です。
 ある男性患者さんは、真剣な表情で、太鼓にあわせて手拍子を打ち、またある女性患者さんは、太鼓の方を指差して、ご家族と笑顔でお話ししていらっしゃいます。また、ある女性患者さんは
「ほら、太鼓が始まったから、アンタもここに来て座って見な」と手招きをして下さり、別の女性患者さんは
「あんなに小さいのに、すごいねぇ。練習もたくさんしたんだろうね」と笑顔で話しかけてくださいます。
 盆踊り、これくらいの歌などプログラムが進む中、会場は始終夏祭りらしい活気に包まれていました。

 これまでの準備に、多くのご家族や患者さんにご協力をいただいています。夏祭り終了後の、
「楽しかった」「また来たいね」などといった、患者さんのなにげない一言が、とても嬉しく感じました。
 患者さんにとっては、夏の暑い日の、たった数時間の夢のような時間だったと思います。
 患者さんが、例え夏祭りに出たことを忘れてしまったとしても、患者さんのこころに
「今年の夏は、たのしいことがあった」という思い出が、ほんの少しでも残ればいいなぁ、と思います。