| 歯科医師 田中 廣一 | |
| 御殿場高原病院に勤務して早や一年が経過しました。もともと高齢者の口の中のケアとキュアが、誤嚥性肺炎の予防に役立つことから、高齢者の口の中の細菌調査をライフワークの一つとしてやっています。そのなかで高齢者を悩ましている病気に、口の中の細菌が関係している時があります。御殿場高原病院の有熱患者の中にも何か原因があるのではないかと、その調査目的でやってきました。 歳をとること(加齢)により、人間は若いころとは違って体の器官にも疲れが出て、思うようにいかなくなるのが老化のはじまりであります。私の専門の病気で、中高齢者の女性に比較的多い病気に舌痛症というのがあります。この痛みは灼熱感といって口の中が燃えるような症状がみられます。なかにはヒリヒリ感を訴える人もいます。この痛みは患者でないとわからないような痛みといいます。医者が患者の痛みをどこまでわかって対応しているのか難しい問題ですが、「腹が痛い」「頭が痛い」というレベルの表現とは違います。学生のころ胆石の痛みは七転八倒の痛みと臨床講義で聞いた時、なんとなく文学的な表現だと思ったものです。痛みの訴え方にも個人差があり、訴え方も上手に表現して伝えてくれる人もあれば、妙に回りくどく下手な人もいます。その点、名医は聞き出し方も上手に違いありません。私などは迷医なので痛みの種類をあれやこれやくらべて、「どっち?、こっち?」などといつも頭を悩ましています。 さきほどの舌痛症などはその表現の多い最たるものです。ヒリヒリ、ピリピリ、ジンジンなど豊富で、患者はまずこの痛みを内科医に相談します。痛みに相当するような異常が舌にはなく、それでも痛くて夜も眠れない、食事もしみて食欲もない、時には味もない(味覚異常)、口も乾くとなれば、医者はまず鎮痛剤、眠剤、胃のくすり等を投与して様子をみる場合が多いでしょう。ところがひとつき経過しても一向に冶らない。相変わらず痛い。次には、こんなに痛がるのは心身症ではないか、そこで安定剤の追加となります。 一般にこの病気の大部分の人は口が乾くようになったとよく言われます。これは歳をとることにより唾液の分泌が減少したり、降圧剤のある種の薬の副作用でも口が乾きます。口が乾くと口の中の細菌叢のバランスが変わりカンジダ菌などによる活動で痛みの症状があらわれます。そんなとき、抗真菌剤によって驚くほど改善したお年寄りがいます。 そんなときお年寄りは、「先生は私の痛みが解ってくれた」「今までどこに行っても治らなかったのに」「先生は神様だ!」などと言ってくれます。患者さんのそんな声に励まされて毎日口の中をみていますが、残念ながら当院には認知症症の患者が多くこのように訴える患者は少ないのです。多くの患者さんは口の中の不快感や痛みの訴えが出来ない人たちです。そこでこっちから異常をみつけるために診ています。この一年を振り返ると、口内炎や炎症、膿瘍などありました。 話は変わりますが、先日、病棟で患者さんのご家族から、突然声を掛けられました。「高原病院新聞読んでいます。知らない病気が沢山あるんですね。興味をもって読んでます。とても面白いです」と言われ、恥ずかしくなりました。今までものを書くという責任も実感もないままに、ただ小学校時代の学級新聞くらいの安易さで書いて申し訳ない気持ちです。もともと書くことは苦手で、いつも原稿を読み直すと「おかしい、変だ」の連続で、締切後に書き直したくなって編集部を困らせることもしばしばです。ことによるとネタぎれでこれで絶筆かもしれません。 |
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