| 歯科医師 田中廣一 | |
| 21世紀の2年目を迎えました。私は信州大学医学部歯科口腔外科におります。毎週月曜日、御殿場高原病院に来て患者さんの口腔内のケアとキュアを目的として口の中を診に来ております。 そこで私の専門からテーマをみつけて、口の中の身近な病気についていくつか紹介したいと思います。今回は「食べる」と題し、口の中で1番大切な働きについて述べたいと思います。 まず御殿場高原病院の食事時の状況について紹介したいと思います。認知症だろうがボケだろうが腹を満たすことは人間この世に生まれた時からの本能です。ここでは病状に応じてグループに分かれ、1人で食べられる人、口まで運べば食べる人、全く食べる意欲のなくなった人など、病状によってまさに千差万別ですが、これが決められた時間内に終えるのは職員総出の大仕事です。 食べるということは、われわれ健康な者では体調によってはこんなものが食べたいとか、これは嫌いだとか、食欲がわかないとか、嗜好品もあると思うが、ここでは介助に携わる職員は患者さんのペースに合わせて一口ずつ運んでいる姿は、まさに介護の原点と言ってもいい。まるで幼児に離乳食を食べさせている母親の姿といってもいい。そして食後の歯磨までの一連の作業を、患者さんのペースに合わせてすすめていることです。こうした光景はこれまで多くの老健施設でみてきましたが、これほどマンツーマンで対応している所はなかったのが正直な感想です。 このように口から食べることは噛むことにより、とりわけ高齢者にとってはアゴを動かすことにより関節(顎関節)が大脳を刺激するばかりでなく、唾液の流出を促し体には大変いいことなのです。よく年をとると口が渇くといいますが、多くは体の全身的疾患にも関連しますが、高血圧の人が服用するある種の降圧剤の副作用でも口が渇きます。また口呼吸などで口を開いて寝ても口が渇きます。口が渇くことにより、口の中の細菌はより繁殖しやすい環境になります。そうなると口臭とか口内炎、口腔粘膜の炎症がよくみられます。本来、食事は口から食べて噛むという一連の動作で唾液の流出を助け、消化のためにも大変重要なことなのです。 進行した病状では口から食べられない患者には、鼻から直接胃に入れる栄養チューブがあります。このほかにも胃に直接穴を開け食事を注入する胃瘻や、さらに中心栄養静脈といって、太い血管にカロリーの高い栄養分を直接点滴注入する方法などがありますが、これらはみなやむをえない病状に応じた処置といえます。人は健康であれば食べる楽しみと、食欲を満たすという本能的な楽しみがあります。おいしい物を食べることは幸せを感じさえします。 日本歯科医師会では8020運動を唱えています。これは80歳まで20本の歯が残せれば、義歯(入れ歯)などの厄介にならないで食生活が送れるというスローガンです。実際はこのようなお年寄りは少なく、大部分のお年寄りは入れ歯、あっても使えない入れ歯、中には歯の治療は放置したままで闘病生活に入ったと思われるお年寄りなどが多く見受けられます。これからは治療によってはより良い食生活が送れそうな人には、地元歯科医院の協力を得ながら指導していきたいと思います。 当院では入院患者の病状に合わせ、食事内容も流動食からペースト食、三分、五分粥、軟菜キザミ、普通食に分けて提供していますが、これからは少しでも上のランクの食事が口から食べられるように、口の中のケアとキュアをアドバイスしていきたいと思っています。 |
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