生活指導員 松橋 孝尚
 昼食時、テーブルの上に御膳を置き、数分間そのままにしていると、Oさんは大きな声で、
「養って頂戴よー」
とおっしゃることが度々あります。私たち職員は、食事もリハビリの一環として、できる限り患者さんに自力摂取して頂くことを目標としています。もちろんそれが困難な患者さんには全面介助をしています。日頃、面会に来られるご家族の方々が介助なさる時もでも、
「帰れよー」
と大きな声を出されることのあるOさんには、どう接すればよいのか、とまどうこともあります。

 数ヶ月前のことでした。出勤途中の御殿場駅ホームで、偶然、Oさんのご家族にお会いして挨拶を交わしました。勤務に入ってから、Oさんにそのことを報告してみました。日頃、レクリエーションなどの折に、車椅子を誘導しようと話し掛けると
「うるせいやい、黙れ」
と興奮気味な声を上げられた経験が何度かあるので、その時も同様のリアクションがあるかもしれないと、私は内心覚悟していました。
しかしこの日のOさんは落ち着いた様子で目に涙を浮かべながら、
「ああ、そう。妹のことかな」
と答えてくれました。私はその時に、心やさしい本当のOさんの姿をかいま見たように感じて、とても嬉しく思いました。

 患者さんの中には、ご家族の方たちが面会に来てくださった時に、「嬉しい」という思いを率直に表現できる方もいらっしゃれば、照れや認知症が邪魔をして、本当は嬉しいのにそれを上手く表現できないで、心とは逆の発言をなさる方もおられます。

 あの日のOさんのやさしさを思い出しながら、ご自分の心をストレートに表現できない患者さんが、多少なりとも心の扉を開くきっかけとなるような、真心のこもった介護をしていきたいと思っています。